分厚い本「産業技術史」を読み始めてみようか
なかなか読みごたえのある本だねぇ
横浜の歴史を知っていけばいくほど、現在の日本の社会の姿が「明治時代、横浜が開港されてから形づくられてきた」ということを改めて理解できます。好奇心というのは不思議なもので、横浜の歴史という種から芽が生えて、関係しそうな事柄を知りたいという欲求が深まってきます。そんな時、書籍「産業技術史」という分厚い本にめぐり逢いました。理解するには、なかなか骨が折れそうで、何より、読み終えたばかりの内容も整理しておかないと、なかなかうまく先に進めないので、整理しながら、じっくりと読み進めようと思いました。
各種産業と資源・技術の関係性
この分厚い本、「産業技術史(文末の参考文献を参照)」のページ数は450ページを超え、ハードカバーで重さもしっかりあるので、なかなか持ち運びには向いていないのですが、それでも、常に鞄の中に忍ばせて、電車での移動時などコツコツと読み進めています。
- 総論
- I.分野別産業技術史
- II.産業技術と社会
目次の概略としては、「総論」「I.分野別産業技術史」「II.産業技術と社会」と大きく3つに別れています。「I.分野別産業技術史」では、文字通り、「繊維産業」や「化学工業」など分類ごとに、産業の技術的な歴史が詳細に書かれています。
1章:動力技術の推移
2章:資源
3章:鉄鋼
4章:機械技術
5章:鉄道と関連技術
6章:繊維産業
7章:化学工業
8章:情報通信産業
9章:都市経営の技術
「I.分野別産業技術史」の分野の中でも、個人的に興味がある項目は「鉄道産業」と「化学工業」です。ただし、この2つの分野を、より深く理解するためには関係しそうな他の分野も理解することで、さらにこの分厚い本を満喫できそうにも感じます。
たとえば、上の図で示した通り、「鉄道産業」には鉄道車体やレールなどの「鉄鋼産業」が関係するでしょうし、「化学工業」であれば横浜の開港以来、輸出品の花形であった生糸などの「繊維産業」というのも、折角ならしっておきたいものです。さらに、これらの産業を下支えする存在として、「機械技術」があり、機械を動かすための「動力技術」がさらにその土台となり、さらには動力を発揮するための「資源」ということが関係しそうです。
上の図で示したような関係性を整理した上で読み進めていくことにしましょう。
日本の工業化の黎明期
一刻も早く、分野別の産業技術の歴史について知りたいところではありますが、この分厚い本「産業技術史」の全体像を掴むために、「総論」に書かれた「日本の産業技術史の特徴」をさらりと読んでみることにしました。
日本の産業が工業化へと向かうキッカケはやはり、1853年のペリー率いる黒船の来航だったようです。上の図で、工業化の黎明期に関係しそうな歴史的な出来事を整理してみました。
当時はまだ江戸時代で、薩摩藩や佐賀藩や長州藩などは蘭学者や職人たちを集め、異国の脅威に備え、自前で鉄製の大砲や汽船の製造に取り組み始めたようです。ただ自前で準備していたにも関わらず、薩摩藩や長州藩は1863年の薩英戦争や下関戦争で大敗北を経験したようです。その後、NHKの人気ドラマで登場した五代友厚や渋沢栄一に代表されるように、視察、使節団、留学など様々な形態で海外に学びにいく日本人が出てきます。最新の産業技術を要した海外の姿から、彼らは多くを学び、これらの知識や経験が維新の成立後の姿に反映されていったようです。産業技術の観点では、新政府のいち組織である「工部省」が発足したのは維新からわずか2年後の1870年だったと、この書籍には書かれています。
1853年 黒船来航
1863年 薩英戦争・下関戦争
1865年 五代友厚が欧州へ
1866年 渋沢栄一がパリ万博へ視察
1868年 維新政府が成立
1870年 工部省の発足
この日本の工業化の黎明期の発展への流れを見ていると、個人が成長していく姿と重なり合う点があるように感じます。個人がスキルを身につけていく過程として、まずそのスキルの「必要性を認知」することから始まるのでしょう。そのショックが大きければ大きいほど、モチベーションも維持されやすいということもあるでしょう。まずは、気軽に手に入る書籍やネットなどの媒体を探して「自前で取り組む」という行動に出ることが多いでしょう。自前でやり始めたは良いものの、なかなか思うように進まず、何かの出来事で大きな「挫折・無力感」を感じることもあるでしょう。たとえば、TOEICの本を買ってきて、自前で勉強し始めたは良いが、いざテストを受けてみるとぜんぜんダメだったとか、道端で困っていそうな外国の人を見つけても声を掛けることさえもできず、「一体、なんのために英語を勉強してきたのだ」とやるせない思いをする経験は多くの人に共通することかもしれません。そういった挫折をそのままにしてしまうと、そこから先に進まないのでしょうが、そこで奮起して、新たなやり方を取り入れる、たとえば「先人に学ぶ」という、より度胸と勇気が必要になりそうな方法に挑戦し、しっかりと「要点を理解」すれば、その先の「実践」へと繋がっていきやすいのかもしれません。
- 必要性を認知
- 自前で取り組む
- 挫折・無力感
- 先人に学ぶ
- 要点の理解
- 実践
歴史が教えてくれること
日本の工業化の黎明期の発展も、個人の成長と同じように、黒船来航で工業化の「必要性を認知」し、各藩が「自前で取り組む」ことからスタートし、戦争に敗北し「挫折・無力感」を感じ、度胸と勇気だけでなく莫大な費用を掛けて「先人に学ぶ」ために海外へと赴き「要点の理解」に努め、新政府の形として「実践」したと言えるのかもしれません。
このところの効率性重視の考えがもてはやされる視点からすると、「必要性を認知」したなら、「事前で取り組む」という無駄なことは飛ばして、さっさと「先人に学ぶ」行動に進めば良いのではないか?とも考えることもできるのでしょう。ただ個人的には、「事前に取り組む」ことによる「挫折・無力感」というものが、その先の「先人に学ぶ」際の「要点の理解」の深さに大きく影響するようにも感じます。
いずれにしろ、日本の工業化の発展も、個人の成長も「キレイに一直線にはなかなか進むものではないよ」と、歴史が教えてくれているようにも思います。
参考文献
新体系日本史11「産業技術史」中岡哲朗等 著