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本を読んでいると、素晴らしい名言や名文に出会います。

名言、名文とまで言わないまでも「こういう言葉や表現で心情や情景を表すことができるのか」という出会いは、まさに本を読む楽しさのひとつではないでしょうか。

本で出会った忘れたくない、覚えておきたい言葉や表現。
まさに一滴一滴を集めておきたいという想いに駆られます。

タイトル一滴一滴

今回は吉川英治著の小説『三国志』の一遍から一滴一滴を集めようと思います。

こんな人にオススメ

  • 三国志ファンの人
  • ゲームなどで三国志に興味が出てきた人
  • 吉川英治作品が大好きな人

【一滴一滴】吉川英治著『三国志』臥龍の岡

「三国志」はゲームや漫画、映画で知ったという人も多いでしょう。
吉川英治さんの「三国志」から味わえる武将たちのたたずまいや志に触れることで、さらにゲームや漫画、映画が楽しめると思います。

ここでは「三国志」で吉川英治さんがつむぎだした言葉や表現を集めています。
文字を追うだけでも、格式のある荘厳な世界観を体感していただけると思います。
吉川英治 著『三国志』臥龍の岡

引用元 吉川英治『三国志』【孔明の巻】臥龍の岡
登場人物 徐庶、玄徳、曹操、荀彧、程昱
あらすじ  曹操の策で玄徳の元を去ることになった徐庶。別れ際、徐庶は孔明を玄徳に推薦する。曹操の元へ向かう道中、徐庶は孔明を訪ね、玄徳の願いを聞き入れるよう懇願するも怒らせてしまう。失意の元、徐庶は荀彧と程昱に連れられ曹操と母に対面する。母は、曹操による策を見破れなかった徐庶を叱責した後に自害してしまう。
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1.骨肉の別れ、相思の別れ

玄徳と徐庶の別れを表現

容易に再会を望めない状況で、互いに別れたくないという強い気持ちと結びつきを表したい時に使えそうな言葉ですね。宇宙にいてもスマホでやりとりができてしまう現代では、なかなか彼らの別れの時のような心情までには至らないかもしれませんが、スマホ越しでなく実際に会っているということが、どれだけ貴重なことであるかを改めて感じさせてくれます。

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2.苦念する

徐庶が玄徳の願いを孔明が受け入れてくれるかを案じている表現

吉川英治さんは他の作品でも、この「苦念する」という言葉を使っておられたようです。現代のサラリーマンの多くもまた通勤電車に揺られながら苦念しているのでしょう。もっとも仕事自体の成功云々ということより、この時、徐庶が按じたように、孔明が素直に諾と言ってくれるかというような人間関係の問題の方が多いのかもしれません。

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3.別辞

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徐庶の孔明への別れの挨拶を示す表現

「別辞かたがた孔明にもちょっと会って行こう」別れの挨拶という表現を漢字二文字で表現されています。こういった細かい格式ある表現が三国志全体に漂う荘厳な物語を演出している気がしてなりません。少なくとも私の頭からは、どこをどう叩いても、こんな漢字二文字を用いた表現は湧いてこないだけに覚えておきたい言葉です。

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4.臥龍の岡

龍が寝ているような形の岡の表現

孔明の住まいはこの臥龍の岡を登ったところにあるようです。臥龍、伏龍と呼ばれた孔明が暮らしていたから臥龍の岡と言われるようになったのかと思っていましたが、こうして読み直してみると岡の形状からも由来しているようです。容易に受け入れてくれそうにない孔明への依頼を心中に抱えた徐庶にとって、どんな風に臥龍の岡を感じたのでしょう。

5.無沙汰する

徐庶が孔明にしばらく会っていない状況を表す表現

「ご無沙汰」として普段、私も使いますが、単に「無沙汰する」という表現があるようです。「ご無沙汰する」よりも、ぶっきらぼうに「無沙汰する」という方が武将や知将の行動を表すのに適しているように感じます。

6.満山は紅葉

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晩秋の風情を表現

秋も深くなり、周りの全体の山が紅葉に彩られている情景が目に浮かびます。色鮮やかな風景の中にひっそりと佇む孔明の家があったのでしょう。燃えるような紅葉の動的な中に、徐庶の心情を織り込んだ静的な孔明の家の対比に面白さを感じます。

7.柴門(さいもん)を叩く

徐庶が孔明の家を訪問する表現

孔明の家に訪問するという状況を示すのに、柴門を叩くという表現にすることで風情が漂います。もっとも実際に柴の門を叩いたところで、シャカシャカと鳴るだけできっと宅内の人には気づいてもらえないでしょう。こんなことを言えば、せっかくの風情が台無しです。

8.寂(せき)として

静けさを表現

漢字を使う日本に生まれて良かったと思う瞬間です。静けさを表す際に、この漢字一文字で状況が伝わります。単に音がないという静けさだけでなく、心情的な寂しさも含まれている感じがします。むしろ心情的な寂しさを込めている表現なのでしょう。孔明の家を徐庶はそのように感じたのでしょう。

9.破衣孤剣(はいこけん)

貧しかった頃の徐庶の様子を表現

破れた服に剣をただ一刀だけ携えている状況は決して恵まれた状況ではなかったということです。ただ恵まれていないとはいえ、服も剣もあるということのようにも思います。現代で言うと、ファストファッションに身を包みスマホを一台だけ携えているということになるのでしょうか。まさに普段の私の状況のように感じます。貧しいというのは所詮、人の価値観による相対的なことのように感じます。

10.茶を煮る

孔明宅の童子が徐庶をもてなす表現

『三国志』の冒頭で、当時、茶は高級品だというエピソードが出てきます。その茶を徐庶のもてなしに孔明は使用したということでしょう。茶を煎れるという表現ではなく、茶は煮るのだと思いました。

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11.廬(いおり)

孔明の住まいを表現

趣のある言葉です。ひっそりとしていて、そこに住まう人は心静かに暮らしている様子を思い浮かべます。孔明のイメージに適している気がします。

12.緒口(いとぐち)を得る

孔明を前にして言い出しにくかった徐庶の心情を表現

会話の緒口はつかむものだと思っていましたが、ここでは得るという表現がされています。なかなか本題を切り出せない徐庶に孔明が気をきかせたので、徐庶としては、緒口を自らつかんだというよりも、得たという感じだったのかもしれません。

13.ご老母(ろうぼ)

孔明による徐庶の母親を示した表現

物語の中で、曹操と孔明がそれぞれ徐庶の母親について会話をします。曹操は単に「老母」と言い、孔明は「ご老母」と言います。武将らしいダイナミックな曹操と知将らしいナーバスな孔明の姿が思い浮かびます。

14.旧友の誼(よしみ)

孔明と徐庶との長い間柄を表現

学歴や年齢も孔明に比べれば徐庶ははるかに先輩でありながら、旧友の誼という言葉を使って、孔明に懇願する徐庶。孔明がいかに優れていたのか、徐庶もまたいかに優れた人間性を持ち合わせていたのかを想像させます。

15.衷情(ちゅうじょう)を面にあらわす

徐庶は心からの願いを孔明に話す様子を表現

衷情、つまり偽りのない本心ということでしょう。優秀な孔明を前に、策を講じても仕方がないと徐庶も考えたのでしょうか。もしくは徐庶のもつ、もともとの正直さが故の懇願の仕方だったのでしょうか。

16.縷縷(るる)

徐庶がどうしても孔明に玄徳の願いを受け入れてもらいたい理由を次々と説明する様子を表現

徐庶は「縷縷その間の経緯やら自己の意見をも併せてのべた」とある通り、静かな岡の上の孔明の家で、徐庶が必死に懇願していた様子が思い浮かびます。ただただ正直にお願いをしていたのでしょう。

17.半眼に睫毛(まつげ)をふさぐ

孔明が徐庶の必死の説明を静かに聞く様子を表現

必死な徐庶の懇願を悠然と聞く孔明の姿が目に浮かびます。私も孔明のように半目に睫毛をふさぎながら、他人の話を聞いてみたいものです。

18.祭りの犠牲(にえ)

孔明にとって仕官するとは生贄(いけにえ)になること同様であることを示す表現

聡明な孔明にとっては士官するというのは、祭りに犠牲として供される家畜同然だということなのでしょう。最近、サラリーマンのことを社畜と表現することがあるようですが、もしかしたらルーツはこんなところにもあったのでしょうか。

19.語気勃然(ごきぼつぜん)と起こる

孔明が徐庶の願いに反発する様子を表現

勃然、勢いが急に変わるということなので、孔明の怒気が伝わります。冷静沈着なイメージで、アンガーマネジメント(怒りのコントロール)に長けた印象の孔明でさえ、こんな一面があるのかと、孔明の人間味を感じて少し安心します。一方で、先輩である徐庶の気持ちを察すると、居酒屋で愚痴のひとつも聞いてあげたい気持ちになります。

20.錦鈴(きんれい)を飾る

生贄になるお供え物としての牛に施す華美な装飾を表現

錦と鈴を飾るということで、日本人にとっては錦の御旗のイメージもあり、格式のようなものを感じます。華美な装飾を表現する方法としてこんな言葉があるのですね。

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21.慚愧(ざんき)する

孔明の憤りに対して徐庶が深く恥じる様子を表現

徐庶としては最大限に孔明に納得してもらえるように、必死に緒口を得て、言葉を選びながら懇願したのでしょう。それにも関わらず、孔明は語気勃然と起こってしまった。それでも徐庶は孔明に失礼なお願いをしたと自分を恥じたということです。なんとも徐庶はどこまでもお人好しなのでしょう。

22.落葉飄々(ひょうひょう)と舞う

失意の徐庶が孔明宅を後にする際の風情を表現

飄々というのは、もともとヒラヒラと落ちる様子を表す言葉だったようです。私は生まれてこの方、一度も落ち葉が飄々と舞うという表現は使ったことはなかったです。孔明との面談を終え、「いつか詫びる日もあろう」と失意の徐庶の心情と重なり合っているような気がしてなりません。

23.愚子

曹操に対面した徐庶が自分のことを示した表現

玄徳の元を骨肉の別れ、相思の別れを経て曹操の元にやってきた徐庶。母親と会えることを期待して、自らを愚子という言葉で曹操に伝えます。へりくだり具合がすごいです。

24.後刻

一刻も早く母に会いたい徐庶に曹操はあとでゆっくりと会うことを勧めた際に用いた表現

三国志の物語の風情を感じる言葉です。曹操が徐庶に「後刻ゆるりと会うもよし」と話す場面。普通なら曹操と徐庶が話している場に母を招き入れれば良いはずですが、曹操にとってはそれを許されぬ負い目のようなものがあったのでしょうか。

25.有義な教え

曹操が徐庶から教わりたいことの表現

これまで色々な人から教わりましたが、有義な教えという表現でお礼をしたことはありません。逆に、有義な教えを聞きたいなどと言われたこともないような気がします。無義な教えしか私は伝えられなかったからでしょうか。

26.慈念(じねん)

徐庶の母への想いをいたわった曹操の慈しみの想いを表現

「苦念する」同様、人の考えや想いに「念」の漢字が加わると粘り気のような印象を受けます。薄ペラな感じではなく、複雑で深さがある印象です。怨念という言葉の印象のせいでしょうか。

27.愧感(きかん)にたえない

曹操の徐庶への慈しみを感謝する表現

愧は恥ずかしいというような意味があるようです。曹操からおだてられ、有義な教えを聞きたいともちあげられた徐庶は、気恥ずかしかったのかもしれません。

28.達見高明の士

曹操による徐庶の人物像の表現

「三国志」の物語には、登場人物を紹介する際にこのような四文字熟語が使われます。こういう表現は単純に格好良いなと思います。曹操からこんな風に評価されれば私なんかは舞い上がってしまいそうです。

29.堂下にぬかずく

一刻も早く会いたかった母親を前に徐庶が額を床に付ける様子を表現

ぬかずくは額を地面に付けることのようです。孝行で知られる儒学を幼き頃から学んだ徐庶は、母親と対面する時にこのように対応したのでしょう。もし私がぬかずいて母親に対面したのなら、何かよほどの事情があるのかと母親に怪しまれそうです。

30.お手紙に接する

母親と偽った書簡を徐庶が読む様子を表現

「書簡に接する」、「お手紙を読む」の組み合わせではなく、お手紙に接するという表現は、母親と息子の親しい間柄の中に儒教の教えに基づく孝行の精神が現れているような気がします。私の母親に「お手紙を接した」と言えば、ちゃんと読んだのか、単に受け取っただけでまだ読んでいないのかと再確認されそうです。

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31.夜を日についで

徐庶は母親を按じて曹操のもとに駆けつけた様子を表現

玄徳と別れ、孔明宅に立ち寄った後、徐庶は懸命に曹操の元にいる母を按じて駆けつけたのでしょう。夜を日についで、という表現に、必死に駆ける徐庶の様子が思い浮かびます。

32.世上を流浪する

儒学を身につけた後の徐庶の十数年の様子を表現

世の中、世間という言葉は使ったとしても、世上という言葉自体を使ったことがないです。若き徐庶は武者修行がごとく、世の中に出て、世間に揉まれて、いろいろ実学を学んだのでしょう。

33.世上の艱苦(かんく)

徐庶が実体験で見聞きした世の中の悩みや苦しみを表現

艱苦、かなりの苦しみなのでしょう。そんな深い苦しみが伝わってくる言葉です。きっと若き徐庶は世上の艱苦を目の当たりにして、大きな志を抱いたに違いありません。

34.人なかの辛苦

徐庶が実体験で見聞きした人の辛さや悲しみを表現

艱苦と同じようで、少し複雑な苦しさを感じます。苦しさの原因がひとつではなく、様々な原因が混ざりあったような苦しさなのでしょうか。ひとつひとつの苦しさの理由は単純でも、絡まった糸のように複雑で容易に解くことができないような苦しさを感じます。

35.孝に眼をあけて忠には盲目(めしい)

母から孝行心はあっても忠義心がないことを責められ修行が片目だった徐庶を示す表現

徐庶の母親の聡明さと厳戒さを感じます。母親だからこそ言える叱責だったのでしょう。確かに母親の叱責は正しいかもしれませんが、久々に再開した息子の徐庶としては少し可愛そうな気がします。

36.よよと泣く

息子の徐庶を哀れんで泣く母の様子を表現

「身をふるわせて、よよと泣いていた」とは、母親の弱々しさと哀れさが表現されています。久しぶりに再開した母親からの厳戒な叱責の後に、よよと泣かれては徐庶の精神が保てるのかと心配になります。

37.悩乱(のうらん)の面

悩み苦しむ徐庶の表情を表現

厳戒な叱責な後によよと泣く久々に再会した母が、その後、何のフォローもなく帳の陰に隠れ姿を消してしまいます。それは徐庶も悩乱の面になるでしょう。悩乱という言葉が徐庶のどうしようもない心情を表現しています。ちなみにこの後、帳の陰に姿を消した母親は自害し、徐庶は昏絶してしまいます。それはそうでしょう。

38.冬風のすさぶ中

季節が冬を迎えたことを示す表現

秋風は使いますが、冬風という言葉もあるようです。徐庶の心情と合致して「三国志」の物語を演出しています。

まとめ

改めて読み返してみると、三国志の世界観に圧倒されます。

ゲームや漫画、映画で『三国志』を知った人も、吉川英治作品を読んでみたいと感じていただいたのではないでしょうか。すでに読んだことがあるという方も、本棚から再び取り出してみようと思われたのではないでしょうか。

一滴一滴の説明

 

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